飛行機で飛び始めて経験の浅い学生からジェット機で飛び始めてそろそろ機長になろうという方まで、横風着陸というものは悩みの種の一つであると思います。
実は私も機長訓練中、横風着陸がうまく行かず悩んだ時期がありました。
今回はその時の思いも込めまして、数号に分けて解説したいと思います。
横風着陸をどのように分かり易く解説するか?
かなり悩みましたが、接地の瞬間から時間的に逆にたどって上空に戻る解説方法が分かり易いと考えました。
つまり、安全に接地するという目的のために、上空ではどのようにするのかという観点で話を進めていきます。
話の前提として、Dry Runway、左からのかなり強いCrosswind、P-Factor無しの単発機ということで考えます。
早速ですが、接地数秒前、センターライン上を真っ直ぐ飛行している飛行機の状態を考えます。
最初に基本的なCrab、次にWingLow/Sideslip方式の違いを紹介します。
Sideslip方式は解説のために、強い風の中を無理矢理機軸をセンターラインに合わせています。
従いまして、実機でイラストのような条件下で実際に試すと危険な状況に陥る事を御理解ください。
最初はCrab方式です。
ちなみにCrabの時の操縦法ですが、いつも通りです。
左右のズレはエルロンで行います。
次はWingLow/Sideslipです
WingLow/Sideslip 方式
機軸をセンターラインに一致させるまでラダーを踏み込んだ状態
横滑り角は最大機軸はセンターラインに一致しているのでこのまま接地しても大丈夫のように思われますが… 左にBankがかかっているので接地すると翼端をこする可能性が大きく危険です。
このセスナは高翼機ですが、低翼機は更にこすりやすいので注意バンク角はクラブ角に比べてよく認識できます 機軸がセンターラインに一致するまで右ラダーを踏んでみた状態
センターラインはエルロンでキープ(操舵)します
イラストはたまたま左エルロンになっていますが、基本は右エルロンです。
操縦法ですが、ラダーはある程度踏み込んだら固定してエルロンで左右のズレを修正します。
ここで簡単に両者の長所、短所をまとめてみました。
名称 | スリップの大きさ | 翼端と滑走路面との距離 | 接地後直進走行できるか |
Crab | 無し | 充分 | 出来ない |
WingLow / Sideslip | 大きい | 少ない | 出来る |
おさらいとして、写真を並び替えてもう一度示しましょう。違いがはっきりすると思います。
Crab Winglow/Sideslip
いかがでしょうか?
ごく弱い横風の時は、仮にCrab方式のままで接地しても何とかなると思います。
なぜならば弱い場合はデメリットが目立たないのです。
では上記のイラストのように横風が強いときはどうすればいいのでしょうか。
おそらく実機で飛んでいる方は実践していると思いますが、接地間際に機軸がセンターラインに一致するまでラダーを踏み込んでいると思います。
これを深く考えてみますと、両者のいいとこ取りを考えて操作していると言えます。
以降はこの状態を再現して解説しましょう。
接地間際までセンターライン上をCrabで飛行できていたものとしましょう。
そこで右ラダーを踏み込んで機軸をセンターラインに合わせると同時に、右に流される傾向を確認したら流されないように左エルロンによって左バンクを確立して、
1 機軸はラダー
2 左右のズレはエルロン
という役割で操縦すると、理屈の上からはセンターラインを維持したまま接地することが出来ます。
接地間際までCrab
この後右ラダー、左エルロンを操作する機軸を合わせつつエルロンで流されないように操作
難しい操作になりますエレベーターで沈みを止めて接地させます
Crabを短い時間でWinglow/Sideslipに推移させたとも言えます。
このように接地間際に多くの操作を極めて正確に行わなければセンターラインの真上に、しかも進行方向が真っ直ぐに着陸することは出来ません。
(上のイラストはX-Planeで実際に操縦したものでは無く、X-Slewというプラグインを使って飛行機を自在に動かして撮影したもので、実際にはかなり困難です)
さて、次はよくある失敗例です。
単純に右ラダーを踏み込んでウイングレベルを維持したまま機軸だけをセンターラインに合わせると以下のような結果になります。横風の中をウイングレベルで機軸を合わせているのですから流されるのはあたりまえですね。
イラストではわかりにくいのですが、機軸はセンターラインの方位に合っています 当然、右に流されながら接地してしまいます
上記は極端な失敗例でしたが、流れを止めるエルロンの操舵量が少ないと同じような傾向になります。
この流される傾向を見越して最初からセンターラインの風上側に位置していれば、右に流されつつセンターに接地するという考えもあります。
この点は指導教官に従ってください。
その場合、飛行機は接地後には右方向に進もうとしていますので、センターラインをどのようにキープするのかが課題になるでしょう。
さて、ここまで見てたように、接地時には必ずと言っていいほど機軸をセンターラインに合わせる(正確にはヘディングを滑走路磁方位に合わせる)デクラブ操作:De-Crab操作が必要です。
なお、機軸はピッタリと合わせる必要は無く、若干右もしくは左に偏向していても接地後のラダー操作で何とかすることが出来ます。
ではいつデクラブ操作を行うのか?
先ほどの説明のように接地直前に行うのが小型機では一般的でしょう。
小型機は操縦に対するレスポンスが良く、瞬時に反応するからです。
また、機軸をセンターラインに合わせるとコントロールが難しいSideslip状態になります。
小型機があまり早くその状態にしてしまう事は得策ではありません。
一方、大型機になればなるほどレスポンスが遅くなりますので、接地直前にラダーを踏んでもすぐ反応せず、数秒後に大きなお釣りとなって踏んだ結果が現れます。
従ってもう少し早めにデクラブ操作を行います。
また上空からラダーを半量踏んでおくという応用操作もあります。このお話はいつか紹介いたします。
さて、この話は単発機を想定していますので、話を元に戻してまとめますと、Crabを接地前に短い時間でWinglow/Sideslipに推移させて接地させるという方法が一般的であると言えるでしょう。
最後にYoutubeにスローモーションとして両方式の動画をUploadしました。
理解の一助にして下さい。
次回は実践編として、横風の中を右、もしくは左にずれた状態からセンターラインに戻りつつ着陸する操作を考えます。