鳥人間コンテストから航空機力学を学ぼう その1 機体のコントロールはどうするの?

手前味噌ながら、桜美林大学鳥人間サークルCEILは2024年鳥人間コンテストで初出場ながら約260mを飛行し、フレッシュバードマン賞を受賞しました。

皆、夜9時まで機体製作に励み、大変頑張った末の大成果です。
学生が頑張った以上に教員としても少しは恩返しをしなければ行けません。
頑張りはこれからでして、この飛行から航空機力学を主眼としてレクチャーして行きたいと思います。

最初にその素晴らしい飛行をyoutube動画で紹介しましょう。

2024LIVE配信(実況&解説付き)アーカイブ「滑空機部門」桜美林大学 CIEL 読売テレビより引用

このようにチームあざみ野の優勝機体を受け継いで初挑戦したのですが、完成までに色々な苦難が待ち構えていましたが、これを詳細に書いてしまいますと学生達の出番が無いため控えておきます。
ということで、この講座は機体が望ましい状態に出来上がって出発台に向けて移動している状態からのお話しです。

その1では出場機体の動翼、操縦装置について解説しましょう。
動翼はラダーだけです。エレベーター、エルロンはありません。
初出場だけに、とても思い切りの良い選択だったと思います。
エレベーターをつけますと、それだけ製作も難しくなり、失敗要素が増えるというデメリットがあります。その代わりに重心移動によってピッチコントロールをします。
つまり、コクピットに乗り込んだパイロットが体を前後に移動することによって機体全体のCG(重心位置)を変化させてピッチの上げ下げをコントロールします。このコントロールを習得する為にパイロットの真島大輝(ともき)君は何度も茨城県のハングパラスクールのNASAに通って鳥人間コンテスト専用の講習を受けました。北野インストラクター、ありがとうございました。

上の写真はパイロットが操縦席に乗り込んで体重を前後に移動して、機体全体がどのようにピッチ運動をするのかどうかを確かめているところです。少しわかりにくいのですが、赤い丸で囲んだ翼を貫く黒いスパー(カーボンパイプ)を木製の台が支えています。パイロットが通常の姿勢を取った時に設計上の機体全体の重心位置はほぼこの辺になりますので、実際に即した練習になります。
実はこの練習は私が指示したものでは無く、学生が考え出したもので、これを見た時にその有効性に驚き、そして今回の成功を確信した瞬間でした。つまり、パイロットが例えば10cm体を動かしたときに飛行機のピッチ角どれくらいの角度になるのかを体に染みこますことができるからです。
この時は尾部にある木製の台を取り払って、学生2人が黒いパイプを力がかからない程度に支えて、パイロットの練習をアシストしていました。

 さて、唯一の動翼であるラダーは次のクリップに映っている、ちょっと見にくいのですが、赤い丸で囲ってある小型カメラの下にある長さ40cm程のアルミの棒です。これにパイロットが腕を伸ばして操作します。パイロットが棒を握るとケーブルが引っ張られ、ケーブルの先についているラダーの部品が引っ張られてラダー全体が動きます。

2024LIVE配信(実況&解説付き)アーカイブ「滑空機部門」桜美林大学 CIEL 読売テレビより引用

この機体の胴体部分は大学の構内の一角で製作されたのですが、出来上がりかけた初期段階でラダーに関して1つ気になることがありました。それは、「パイロットが乗り込まなくて機体を運搬しているときに、強風時にラダーが風にあおられてバラバタしないか」という点でした。学生にそれを指摘すると棒を握っていなくてもラダーがニュートラル(中立:真っ直ぐ)になるようにバネをつけて改造してくれました。

このように本番を迎えました。
本番当日は、写真奥の整備エリアで前日に組み上げた機体をプラットフォームに移動しなければなりません。

慎重にプラットフォームまで運びましたが、我々の出番になると強風が吹いてきました。(秒速5m以上では離陸できません)プラットフォームまで上がる斜面にさしかかると、大会関係者から下記のアドバイスを頂きました。「強風で動翼があおられて破壊する恐れがあるので対処して下さい」
バネをつけていて良かったと思ったのですが、もう一つ確実にするために、1つのことを考えました。

それはラダーに繋がっているケーブルをプラットフォームに上がるまでにガムテープで固定する作戦です。しかしこれは大きなリスクを抱えています。テープを剥がし忘れるとコントロールが利かない状態で飛行する羽目に陥ります。そのため複数の学生に離陸前にテープを剥がすことの重要性を話し、なおかつテープの下に「Remove Before Flight」のようなヒラヒラをビニール紐をちぎって貼り付けました。

wikimeedia commonsより引用

実はビニール紐のヒラヒラ作戦はすでに取り入れられていました。
学生が翼にぶつかる事が多かったため、私の発案で、少しわかりにくいのですが下の写真のように青いビニール紐を垂らしてわざと目立つようにしていたのです。

このようにプラットフォーム(高さ10mの離陸台)にたどり着いたのですが、実は離陸後に心配なことがありました。
それはパイロットがラダーをコントロールできない、ロール方向に操縦不能な時間が数秒存在するということです。つまり、離陸後パイロットが巡航姿勢に落ち着くまでの数秒間は、先ほどの写真の棒に手が届かないのです。また無事滑降を始めて接水前(着陸前)にフレアをかけるのですが、その時も体重移動によって操縦桿から手が離れてロール方向の操縦不能の時間が生まれます。

特に離陸時は注意が必要です。youtubeビデオを見てみましょう。
下は離陸時の滑走開始の画面ですが、操縦桿に手が届いていません。

2024LIVE配信(実況&解説付き)アーカイブ「滑空機部門」桜美林大学 CIEL 読売テレビより引用



↓ 次はパイロットが浮き上がっている時点での様子ですが、この時も届いておりません。

2024LIVE配信(実況&解説付き)アーカイブ「滑空機部門」桜美林大学 CIEL 読売テレビより引用


↓ このくらいになって手が届いていると思いますが、その数秒の間に機体が右や左にロールしているとしますと、この時点から修正することになり、大変です。

2024LIVE配信(実況&解説付き)アーカイブ「滑空機部門」桜美林大学 CIEL 読売テレビより引用


この課題は最初に学生達から離陸の要領を聞いた4月から把握していましたが、どうしようもありません。離陸後、傾かないように祈るだけでした。

ということでその1はこれでおしまいですが、実は話題は山ほどあります。
この話はまだ続きます。