平均的なフレアの軌跡は?

 ジェット機のフレアについて考えるときに、平均的な軌跡はどのようになっているのか知りたいときがあります。
それがわかれば、例えばあるエアラインの乗員部のパイロットが行っている、ごく平均的なフレアの軌跡(パス)が判明し、個人の軌跡をそれと比較して見比べることが出来ます。

 下図は福岡空港ランウェイ16で私と副操縦士がE170型機で行った172回のフレアのパスを示したものです。これは個人的なデータであるため、あくまで参考です。(データのアプローチの9割5分以上がRNAV16です、従ってGlideslopeにFollowしておりません)
なお、これも個人的な意見ですが、自分自身のフレアはごく一般的なものであると思っております。
さて、172本の線が込み入っているため、少しわかりにくい部分がありますが、意外に多くのバラつきがあることがお分かりいただけると思います。
しかし、ご覧になって一体どれが平均的な軌跡なのかのかは、さっぱりわからないと思います。

なお、172本をGoogle Earth上に描いた物が下図です。
かなりリアルな印象を受けますが、これも沢山の線が入り乱れて、全体像がわかりにくいという欠点があります。


一体どのパスが平均的なのでしょうか?
この難しい課題については、以下のように考えました。

平均的なパスを一本選び出すのは困難である。
その代わり次の方法で平均的なパスを導き出す。
 1つの便のパスについてスレッシュホールドから10フィート毎の地点毎に高さを再計算する。
合計172通りの高度を算出し、その平均的な高度を使う。

具体的には、1秒おきに記録されているデータを、スレッシュホールドから0,10,20,30フィートのように10フィート刻みのタイミングに直して全て補間します。この計算を172便全てに行います。
そうしますと、例えばスレッシュホールドから0,10,20、30フィートの高度についてその傾向が統計計算によって明らかになると考えました。
統計値としては、25%、50%、75%クオンタイル値です。

クオンタイルというカタカナになじみが無い方が多いと思いますが、例えば20フィートの地点を通過した172便全ての高度を、小さい順から並べて、172*25%目の順番の値、丁度真ん中の順番の値、172*75%目の順番の値です。この値を使った表現方法は箱ひげ図として様々な、分野で活用されています。
(10フィート刻みで表示すると箱が多くなりますので100フィート刻みの表示にしています)

25%クオンタイル値は箱の下端、50%は箱中央の横線、75%は箱の上端、点は外れ値です。
この図を使って説明するのも一つの方法であると思いますが、上下に延びるひげに視線が惑わされてしまうため、以下のような3本の線を使ったグラフで表現したいと思います。
線の真ん中は50%、下は25%、上は25%です。
この線の範囲によって全体の半分が占める範囲と、平均的な値をシンプルに把握することができます。

 上図を見ますとスレッシュホールドでの電波高度計の値は(気圧高度計の値ではありません)、46feetが代表的な値であり、半数の便が46feet~50feetの間に入っていると言えます。
ジェット旅客機を操縦するパイロットとしましては線の幅が限りなく小さいことが求められますが、お恥ずかしながらこれが現実を反映したものでもあります。

さて、このように「平均的なフレアの軌跡はどうなっているの?」という問いに対してデータサイエンスを活用して可視化が可能になりました。

このように一旦、平均的な軌跡を求めることが出来た後は、様々な解析が可能になってきます。例えば、
平均的な軌跡をシンプルにモデル化したい。(円運動?2次関数?)
Speedが多い時には軌跡の観点からか、どのような傾向があるのか?
電波高度計が20feetの時に大幅に低い時の軌跡はその後どのようになるのか?
等、応用は無限に広がります。

今回はデータサイエンスによってパイロットの職人技を紐解く活用例を紹介しました。