アプリ「Flight Track Planner」を活用してTraffic Patternのプランを極めてみましょう。
最初は強い正面風に対するタイムチェックの考え方です。
なお、このセクションではジェット機に乗務されている方を対象にしています。
小型機も考え方は全く同じですからどうそおつきあいください。
皆さんが所属する航空会社には下のような図が必ずあると思います。
そこにはAbeamからBaseturn開始までの秒数が書かれていると思います。
さらに航空会社によっては正面風の成分によって上記の秒数を調整する考え方、例えば30秒±1秒/10ktなどのように書かれている場合があると思います。
今回はその30秒±1秒/10ktの計算の妥当性について紹介します。
おそらくその値は次のように考えられて計算されていると思います。
強い風によってBase Turn 開始地点は風下に流される。その流される分を補正して、少し短めに飛べば丁度いい。つまりBase Turn開始地点を無風と同じ地点にするために、時間的に早めに旋回を開始するという考え方ですが、実はその補正では足りないのです。
その理由を以下に紹介しましょう。
無風の場合を考えます。
2.5nm幅 Downwind160kt 30秒でBaseturn 150kt 25度Bank ,30秒Baseを飛んで25°Bank140ktでFinalを想定しています。
軌跡は下記のようになる事でしょう。
今後の話がわかりやすくなるように、Start BaseとBaseのラインにReference Lineを2本引きました。
ここで、滑走路正面から20ktの風が吹いた場合を考えます。
Time Checkの秒数は30秒のままで、なおかつBaseでのWCAを取らないと下記のようになります。
Base Legの位置は大きく風下に流されます。
そこでTimecheckの秒数を短くしてBaseの位置を調整しようと考えます。
30秒→27秒に縮めて、緑の線がオレンジの線に変わる地点:Base Turn開始地点が無風時と同じ地点になるように調整した結果が下図です。
この短めた時間が冒頭で紹介したものです。
しかしBaseでのWCAが足りないため、Finalは風下に流されています。
そこでBaseでのWCAをしっかり、左に8度とった結果が下図です。
注目して頂きたいのは無風の時に比較してまだBaseが0.2nmほど、風下に流されている事です。
これはなぜでしょう?
正解は、約30秒のBase Turn中にも風下に流されているからです。
従って、この分も考慮してTimecheckを短くする必要があるのです。
Timecheck秒数を30秒→24秒にしたものが下図です。
これで見事、無風時と同じパターンになりました。
冒頭で紹介した、30秒±1秒/10ktの妥当性について御理解頂けましたか?
結論として上記では足りずに30秒±2秒/10kt程必要です。
このように、Traffic Patternはしっかり考えると奥深いものがあります。
また、機長になられて数多くのフライトをこなしている方にとって、うなずいて頂けるとおもいます。
おそらく「風に流される」とはどのようなものかは数多くの実体験から感覚的に把握出来ていると思われ、向かい風の強風では想像した以上に流されるため、計算より早めに回っているはずです。
繰り返しになりますが、想像した以上に流される理由は、上記に示した旋回中にも流されるためです。
「風に流される」とは突き詰めれば、大気を中心と考えた座標系が地面を中心とした座標系に対して平行移動している事なのですが、話が難しくなりそうですので、後に説明しましょう。
なお、アプリではこの平行移動の概念も含めて下記のように図示しています。
仮に無風であったとすると、点線のような軌跡になりますが、正面から20ktの風に押し流されて通常の綺麗な軌跡になったという事を図示しています。
(黄色い線は流された量、難しく書きますと風ベクトルを積分したものです)
今回はアプリを使いながら実運航で見逃されきた点を紹介しました。
その2からもこのようなお話しが続きますのでおつきあいください。
最後に、機長を目指す方の勉強ネタを記しましょう。
Base Turnに要する秒数は、無風と正面風で異なりますか?同じですか?
→異なります。ヒントはBaseのWCAです
BaseLegが風下に延びてしまうと何に支障を及ぼしますか?